カオスにルールを与える
発散する未来
未来は現在から見ると、不確定な存在で発散する。それは、カオスに近く、不確定な要素が大きい。カオスに新しいルールを与え、望む方向に収束させる。
マイクロクレジットの成功
今年のノーベル平和賞は、バングラディシュのグラミン銀行と、その主催者に与えられた。
非常に貧しい地域。生活するのがやっと。お金を融資しても、ほとんどの場合かえって来ない。
誠実な借り手と、最初から逃げるつもりの借り手。
それを見分ける術はなかったから、お金を貸す側にできるのは、金利を高く設定して、数少ない誠実な借り手から、より多く儲けることだけ。
バングラディシュの年金利は100から200%近く。そんな状況だから、誰もお金なんか返せないし、借りたところで踏み倒して逃げてしまう。お金が回らないから、いつまでたっても貧困がなくならない。
誰が誠実な借り手で、誰が違うのか?
グラミン銀行は、「相互選抜」というルールを導入して、両者を見分けようとした。
1.お金の借りるには、まず責任を連帯するグループを組む必要がある
2.連帯グループは、3人から10人くらいの借り手でグループを結成し、支払いを連帯保証することを条件にお金を借りる
3.借り逃げをたくらむような危険な相手とは誰も組まないので、安全な借り手が銀行にくる可能性は高まる
銀行側の安全を確保するルールはもう一つ。それは、「繰り返し」。
1.グループができたら、最初に7日間のコースで銀行のルールを覚えてもらい、まずはグループのうち2人に12〜15ドル程度を貸し出す
2.はじめの融資が6週間以内にきちんと返済されてから、次の二人に融資する
3.グループの代表は、最後にお金を借りられる。
不誠実な連中が口裏を合わせてグループを作っても、銀行に何度も来ないと、グループは満額を受け取れない。これは「繰り返し囚人のジレンマ」ルールそのものだから、裏切りは双方に不利益になる。
相互選抜と、繰り返しルール。ネットワーク科学とゲーム理論のいいとこ取りをしたようなこの制度はうまくいった。グラミン銀行の融資返済率は90%にも達し、年利も20%と、この地域にしては画期的に低く抑えることが可能となった。
発散する未来に、新しいルールを追加する事で、望む方向に収束させる。カオスにルールをかぶせる事で、望む定常を取り出す事が出来る。
いいアジャイル
高いレベルでは、Googleのプロセスは、もっと伝統的なソフトウェア開発会社の人から見ると、たぶんカオスのように見えるだろう。新しく入ってきた人には、次のようなことが目に付く。
- 一種のマネージャはいるが、彼らのほとんどは少なくとも時間の半分はコードを書くのに使っており、テクニカルリードに近い。
- 開発者は、自分のチームやプロジェクトを、いつでも好きなときに、何も聞かれることなく変えることができる。ただそうすると言えば、運送屋がやってきて翌日には新しいオフィスで新しいチームと働くことになる。
- Googleには開発者に何をやれと言わない哲学があり、開発者たちはそのことをとても重く受け止めている。
- 開発者は20%の時間(これは週末や個人の時間にということではなく、月-金、8-5時の間でということだ)を、自分のメインのプロジェクト以外でやりたいことに使うよう強く促されている。
- ミーティングがあまりない。平均的な開発者はたぶん週に3回くらいのミーティングに参加し、これには自分のチームのリーダーとの1対1のものも含まれる。
- 静かである。エンジニアは1人で、あるいは2-5人の小さなグループで、静かに自分の仕事に集中している。
- 比較的まれなクランチ期間においてさえ、みんなランチとディナーは食べにいき、それは(良く知られている通り)いつも無料で美味だ。そして自分でそうしたいというのでない限り、ばかげたくらい長時間働くようなことはない。
これはもちろん一般化している。長くいる人は若干違った見方をしているだろう。私のAmazonに対する見方が、それがまったく狂った場所であった1998年にそこにいたということによって若干バイアスがかかっているのと同じことだ。しかしGooglerたちの多くは、私の一般化がごく正確なものだと認めてくれると思う。
どうしてこんなのが機能しうるのか?
一般的にシステム開発は、製造業と同じように時間で縛り、日程で縛り、計画で縛る。あらゆるもので縛って、足りないものは人員補強して、それでもデスマーチに至り、どうにもこうにも行かなくなる。これはなぜなのか?