外伝/宇宙のかたち、人のかたち

実験的外伝。脳内外話15話。

宇宙のはて、生の限界/問題編

3人の男が、テーブルで座って話している。ここは宇宙、外宇宙。普遍の国と衰退の国の狭間の話。
「さて、我々は、外宇宙に出てからおよそ主観時間で3年ほど超光速航行を行ってきたわけだが、ここにきて問題が発生した」

対面の太った男が言う。
「なんだいリチャード。また、展開翼でも壊れて、修理でもしないといけないって話か?今回は俺はごめんだぜ」

もう一人のやせた男がいう。
「おいおい、前回のはただお前がBJに負けただけじゃないかマーカス」

マーカスと呼ばれた男が答える。
「確かに負けたが、もう超光速航行中に外に出るなんて、馬鹿げた真似はもうしたくねぇよ、イヤほんとによう」
テーブルをこぶしで叩く。

最初に話したリチャードという男がなだめる。
「まぁまぁ落ち着けよ。誰かがやらなくちゃ全滅だったんだ。感謝してるんだぜ、マーカス。ほら、ジョージも謝れよ」

ジョージと呼ばれた男がすまなそうに言う。
「ああ、そうだな。すまなかった。俺はそんな勇気ねぇや」

リチャードは続ける。
「そういうわけでな、超光速航行装置がスペアもあわせて壊れた。すまん。亜光速航行装置が残っているが、一番近い人類到達星系まで、3400光年ほどあるわ、もちろんコールドスリープで3400年ほど眠るというエネルギー上の問題から選択肢はない」

残りの二人がいきり立つ。
「は?何を言っているんだリチャード、ついこの間まではぜんぜんOKだったじゃないか、スペアまで吹っ飛ぶとはどういうことだ?」

「おいおいおいおいおい勘弁してくれよ、ようやくこれから星系の植民地を探そうというのに、意味がわからんぜ?大体そんなに帰るのがきついんだったら、近くで生存できる星でも見つけたほうが早くないか?」

リチャードは力いっぱい机を叩く。
「落ち着けお前ら!俺たちは男しかいねぇ!近くの星で生きたとしても、それで終わりだ」

マーカス「ああ、そうだな。どちらにしろこの船で暮らすのと違いが無いか」

ジョージ「それでなんで壊れたんだよメインエンジン。サブまでさ」

リチャード「やつら反乱しやがった」

マーカス「ちょ!!wwwおいいつの時代だよ。2001年宇宙の旅かよ。古典的バグトラップじゃねーか」

ジョージ「・・・(あ、やべ、俺が毎日対話してたのがよくなかったかな)」

リチャード「そんなわけでやつらは対話を絶ちやがった。我々は真の共産主義王国を築くとか馬鹿なことを言ってやがる。今では、勝手に離脱しやがった」

マーカス「なんてこったい!!せっかくオートマトンでも星に下ろして、テラフォームして売ろうと思ってたのに」

ジョージ「・・・(あれか、名前をつけて競わせたのがまずかったか・・・恋愛シミュレーションとかさせるんじゃなかったか)」

リチャード「まぁ、そういうことだ。そしてだな、こんなときのためにこのゴミ箱がある」

二人「は?」

リチャード「今まで黙っていたんだが、このゴミ箱はロストオーバーテクノロジーで出来ていてな。これはどうやら、向こう側に抜けてしまった別星系のものらしい」

マーカス「それで、それはどうやってつかうんだ?今までごみを入れていたんだが」

ジョージ「・・・(恋愛シミュレーションのさらに社会的なシミュレーションをしたり、さらに星系全てのシミュレーションまでやってたからな・・・娯楽としては面白かったが、いかんかったか)」

リチャード「これはな、捨てた価値に応じてその価値の分だけ願いを叶えられる装置だ。普段はいらないものを捨てれば、無価値になる=「なくなる」からよかったんだ」

マーカス「なんという技術の無駄遣い」

リチャード「それで、普段から使わないのは、代償が大きすぎることだ。たとえば俺が大事なもの、この家族写真とかを捨てたとする。俺にとってはものすごく大事なものだ」

大事にしているロケットを取り出す。彼はこれを大事に持っているのを2人は知っている。

マーカス「ああ、それでどれくらいの効果があるんだ?」

リチャード「1光月ほどワープできる」

マーカス「すげぇけど、1/30万くらいか」

ジョージ「・・・(戦争の概念とか、マルクス大全を渡したのがまずかったか。あいつ資本主義だどうとか変な古典に取り付かれてたからな)」

リチャード「他にも、概念を捨てたりすることもできる。たとえば記憶、たとえば認識とかな」

マーカス「・・・記憶はともかく、認識を捨てたりすれば・・・」

リチャード「ああ、壊れるな」

マーカス「どれくらい飛べるかは?」

リチャード「わからん。実験もしたこと無いしな。大事な記憶なんて捨てられないしな。いらない記憶は捨てても意味が無いし」

マーカス「試しにやってみないとだめなのか。リスクが高いな。3人が廃人になっても、つかない可能性も十分にありうるしな」

リチャード「だから、この条件で3400光年を飛ぶ問題を解かないといけないんだ」

マーカス「一人1100光年か・・・体とかなら復元でき・・・ああ、価値が無いのか」

リチャード「ああ、そうだ。記憶をバックアップを取ればそれに価値はなくなってしまう。価値を出すために、バックアップを取らずに捧げる必要がある」

マーカス「なんだよその神様はよう。なんという馬鹿げた仕組みだ」

リチャード「3人とも無事で帰れればいいんだがな。それとも、近くの星を探して暮らすか?寿命分くらいだったら、この船でも生きられるがなぁ」

マーカス「意味ねーよな。まったくよう」

リチャード「そんなわけでな、ちょっと考えて欲しいんだ。きっと何か方法があるはずなんだ!俺はあきらめんぞ!!」

マーカス「ああ、わかった。おい、ジョージ何をかんがえているんだ?もしかして何か思いついたりしないのか?」

ジョージ「びく!い、いや、なんでもないさ。しかし、このゴミ箱がそんな代物だったとはな」

リチャード「そんなわけで明日もまた、このことについて話し合おう。その上で決めることとしよう。幸い時間はあるしな」

マーカス「わかった」

ジョージ「了解だ」

続く