Googleを作るための組織論

インターネットは個を持ちえるのか?

SFではよく、高度に発達したインターネットが、個の垣根を消して全体として個を得るみたいなギミックが有る*1。そんなことが実際にありうるのだろうか?

答えとしては、今のままでは「ありえない」だ。個を得るためには、いくつか条件が有るようだ。そのうちのひとつ、「環境の中に私がいる」というものがある。つまり、当然のことだが、個の外側の環境と内側があって初めて、個として働く必要条件となるわけだ。今のインターネット(全体)には、外が存在しない。だから、インターネットは個を獲得できない。

逆に言えば、インターネットを環境とした、構造郡が個を得るのかと言われれば、それはYESだ。今のままの形ではないとは思うが、新しい形の個を得るのだろう。それは例えば今の「はてな」とかに近いのかもしれない。「はてな」は情報を代謝している。インフラとして、バックボーンの地位を得るでもなく、その入りにくさが帯域を制限し個として機能し始めているのかも知れない。

個を獲得するには、外界と自己を区別するための外殻(シェル)が必要なのだ。唯闇雲に、帯域を増せばいいってモノでもないらしい。はてなは、特有の文化を形成し、それが新しい新規加入者を拒み始める傾向を明らかに見せている。例えば「衆愚」というワードは、馬鹿なやつは入ってくるなという拒絶を発している。これは、明らかに内部と外部の差が大きくなり、それをつなぎとめるための外殻となったのだと考えられる。

マーケティングは新しい生態圏を作るための魔術

今まで、イノベーションモデルは、連続系モデルを使って、説明をしようとしてきた。でも、実際キャズムとして知られる深い溝が有るように、連続モデルでは説明がつかない*2。実際は、イノベーション生態系モデル*3を使って説明した方が、説明しやすいのではないだろうか。

人を群れとしてガウス関数で近似するのではなく、もっと群れるものなのだ。おそらく1つの正規分布ではなく、いくつも溝が有るのだと思う。その大きい溝のひとつがキャズムな訳だ。要するに、まとまった組織集団がいくつも存在するのではないだろうかと言うことだ。プログラマーはおそらくプログラマーの中で正規分布*4をするだろうし、学生は学生で分布をするだろう。

参考 イノベーター理論
http://www.mitsue.co.jp/case/concept/02.html

Mixiに疲れる理由は、帯域を制限できないからだ

まぁ、すでに言われすぎていて食傷気味だろうが、個-組織論から再解釈すると、こうなる。

外殻を作るには近すぎる。一体となるには遠すぎる。
特に帯域を制限するための仕組みが稚拙すぎる。

だから、距離感が気持ち悪い。これだけなのだろう。

Googleは技術者を子ども扱いすることで囲い込む

そういえばこんな記事があった。

当時の同社技術者の多くは6畳くらいの広さのコンパートメントを与えられて作業していた。私たちもそういう一つの部屋を2-3名で共用する形で作業していた。しばらくたって驚いたのはそのコンパートメントでは開発者たちは自由に、というか好き勝手なことをしていたということである。記憶曖昧なところはあるのだが、こんな感じ。

ある部屋では大きなシャギードッグが飼われていた
ある部屋ではバイクを持ち込んで分解メンテナンスしている人が居た
ある部屋では壁にラジコンが並んでいた
ある部屋では5歳くらいの子供が中で遊んでいた

http://sitebites.homeip.net/blog/227

さすがgoogleと思ったものだが、一方でどうなんだろうとも思った。

それから、こっちも読んだ。

あれしたい、これしたいみたいな細かい雑用は全部企業側が負担してくれて、技術者は技術のことに専念できる環境。

一見すばらしいことだけれど、楽園みたいな環境を意図的に作られると、その人は囲い込まれる。

転職に役立つ「手に職のついた状態」というのは、スタンドアロンでその技術を再現できること。

それをやるには「全部」知っていないといけないのだけれど、全部を知るためにはバックグラウンドでどんな雑用が行われていて、それに何人ぐらいの人がかかわっているのか、そんなことも知っていないと、新しい場所で技術を再現できない。

一番面白そうなところに夢中になっていて、雇用者側もそれを良しとしているような環境に長くいると、そこから他に移ったときに全く役に立たない自分に気付いたりして、すごく大変。

http://medt00lz.s59.xrea.com/blog/archives/2007/02/post_454.html

なるほど、Googleは見事に囲い込んだ訳だ。いや、解釈するならば、組織として一体になり、個を得たのだ。内部と外部が違うルールであること、外殻が形成されること、外側の環境が存在すること、全て満たしている。一度多細胞生物の一細胞となった、細胞が単細胞生物に戻りたがるだろうか?これは、ありえない。なぜならば、単体で生きるための機能はすでになくなっているからだ。

日本は終身雇用制度を使って、一分野のさらに一分野しか触らせないことで、技術者を安く買い叩いた。世界的にすごいと言われるような技術者でも、ほんの少ししか貰っていない。そのためその人の後任ができないといった問題も出てきている。

さて、何を作ろうか?

新しい個を得るためには、以下の条件が必要で有るようだ。

・外側の環境が存在すること(自己が存在できるための環境、できれば同等の個の存在)
・内部と外部が違うルールであること(インセンティブ、禁忌、法律)
・外殻が形成されること(内部からと外部からの流入の制限)

おそらくこのような条件を満たしつつ、組織文化を形成するならば、よくも悪くも上位の個に下位の個が依存した組織、そして上位組織としての個を獲得する。内部の人が、それで幸せなのかと言われたら、それは別問題で有るのだが。単細胞で動けるようなスペシャリスト集団*5とは、少々違うようだ。

さて、どんな組織を設計しようか。

*1:具体的には出てこないけどね。方向として

*2:そういう例外として処理すれば問題ないが

*3:今作った

*4:に近似できそうな分布

*5:これは個をもち得ない