やわらかいシステムと将来のヴィジョンの必要性

何のためのシステムか

硬く硬直している組織をよく見る。組織の伝統を生かすためにみんなの心を削っている。初めは何かを目的としてそのシステムを作ったのに、いつの間にか目的は忘れられ、儀式として形骸化する。硬直したシステムは、その名のとおり、変えるにはものすごく力が必要だ。いっそ、それごと捨てて新しく作ったほうがコストが安くなりそうなシステムをよく見る。システムのためのシステムになってしまっている。

何のためにこのシステムを作ったんだろう。それを忘れてしまうようなシステムは、あまりその中にいて居心地が良くない。儀式ばっかりやって、ちっとも前に進まない。それを無くそうとすると、それこそが大事なことだと古株が言い出す始末だ。何を目的にここに集まっているのか完全に忘れている。仕事なら、一番上の会社の理念。何かの団体だったら、それの創設理由。そういうことを忘れていては議論にすらならない。ダメだからダメという何とも情けない理由で、変えることを諦めさせられる。

そんな組織は、何とも効率が悪い。当然他社には勝てない。それでも、変えることはかなり難しい。変わらないことを前提に作られてしまったシステムは今の時代に生き残っていくことができないだろう。骨を折っても改革するか、骨を抱えて死ぬか。そんな二者択一を迫られる。

変わることが前提のシステム

変えられないシステムは例えるならば、固体だ。全く流動性がない。転がれば削れてしまう。でも動きがないなら安定している。自分の命よりも形を大事にして、死んでしまう。目的は生き残ることだったのに。

それとは逆に、変えることが前提のシステムは半液体だ。流動性があり、どんな場所でも自分の形を変えてしまう。自分の形が重要ではなく、生き残ることが重要だと知っている。固体よりも個々の分子が活性度が高く、いろいろな反応もこなす。今本当に強い企業は、そのような形をしているか、または今の時代に合わせてデザインされた企業だ。小さい頃の組織は、大きな組織に比べて変化を許容し、変化のコストが低い。

だから、自分が作るとしたら、そんなに大きな組織を目指さなくてもいいと思っている。

権限移譲

リッツ・カールトンというホテルをご存じだろうか?ホテル業界でトップの評価を貰う企業だ。「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」という本を今読んでいる。正直、普通のエントリーに本のことは出したくなかったが、出さざるを得ない。驚いた。それもいつの間にか自分の意識が変わっていることに。優しい驚きなんて初めてだ。別にどこにも、驚かすようなことをショッキングに書いてあるわけではない。

リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間

リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間

ザ・リッツ・カールトン・ホテルの日本支社長が語るのは“おもてなしの極意だ。よくありがちな従業員と顧客との心温まるエピソードなどではない。欧米の上流社会で脈々と受け継がれてきた最高のサービスとは、設備でもマニュアルでもなく “人の価値だと言い、その育て方を指南する。教育は入社面接時から始まっていると言う。面接会場はホテルの大宴会場。ドアマンとピアノの生演奏が志願者を迎える。たとえスタッフの面接だろうと、宿泊客と同様にもてなすことで、同社の理念やサービスの質を伝えるのだと説く。

本当に驚いたのは、一日2,000ドル(25万円相当)までの決済権の権限移譲ということだ。これを最初見たときは勘違いしていた。クレーム対応にそのような権利を与えていると勘違いしたのだ。でも、違った。お客様を喜ばすために、2千ドル1日で使ってよいということなのだ。それはたとえば、花束のプレゼント、忘れものの飛行機で届けること、シャンパンなどのプレゼント、知人の他の地方からの飛行機での呼び出し、ただホテルの横で車を止めたというお客様以外の人に、車を貸し、お金を貸すということ。ああ、驚いた。徹底的に権限移譲を行い、その場で判断、実行できるようになっている。

そして個人の感性を大切にするということ。普通の組織は、入ってきたら個人の感性を邪魔なものとして潰す。1年くらいかけて念入りに。そして、感性を潰された社員はそれを社員になった証として、空気を読むようになる。でも空気を読めるようになると、逆に外から見た視点を失ってしまう。そして、突飛なことを言う人よりも、空気を読んで無難なことを言う人の方が昇進しやすい。こうして、組織は1枚岩になるが、1枚岩は硬いが脆い。

それが、感性を大切にするということは、できるだけ変わった視点が推奨されるということだ。だから、新人の方が古株よりも気づくことが多いということを、むしろ推奨するのだ。変なところを直し、より素晴らしいものを素晴らしくする。それは、すべてお客様のために。自分たちを優先するような組織とは一線を画す。社長だけ「お客様は神様」と言っているんではない。すべてのスタッフがお客様を、よりよく過ごしてもらおうともてなすのだ。ああ、敵うはずがない。

手段と目的

硬直したシステムは、儀式を大切にする。儀式をすれば、やることは同じであるが、逆に目的が統制が取れない。同じことをやっていても、目指しているゴールが全然違うというのはよく見る。それが政治的駆け引きだったり、やる前から結果が決まっている選挙だったりする。あくまで儀式が大切であって、ゴールはどうでもいい。だから、迷走する。みんなが足を引っ張り合う。既得益権の縄張りを争うような醜い組織になる。

逆にゴールが決まっていて、あとは権限移譲で自由にやっていいのなら、話は180度変わってしまう。あらゆる方法を用いても、目的はぶれない。何のためにやっているか常に意識するから、縄張り意識がない。むしろ、協力も自然にできる。とにかく、ゴールに達せばいいのだから。だから、逆にみんな一丸となってあらゆる個性を発揮しながら、目的を達成するという組織になる。

クレドという目的

リッツ・カールトンのスタッフはみんな、企業理念を書いたカードを持っている。それがクレドを言われるものだ。それを徹底的に、理解し、読み親しみ、自分の思考の一部にする。それが何より大切だ。理解したふりではない、上から与えられたものでもない。進んで学ぶのだ。

そしてそれは世界中のスタッフが、いろいろアイディアを出しあい、少しづつ変えていく。すべては目的のために。

素晴らしい組織だと思う。そして、技術系の企業こそ、間違いやすいんだと思った。物を、技術を売っていると勘違いしてしまうんだ。違う。満足を、驚きを、感動を売っているんだ。それが理解できていないから、お客様に向かって裏で文句を言う。ネットのことを何もわかっちゃいないと。ああ、勘違いだった。驚くほど勘違いしていた。技術者にこそ、この本は読んでほしい。

将来のヴィジョンとミッションステートメント

ああ、理念がない。お客様に何を与えたいのか、どう喜んで欲しいのか。会社を作るというのは、お客様を作るということだ。それはつまり、満足を作りだすということだ。そこを勘違いしていた。そして、やっと理解できた。今まで何か足りないと思っていた。自分だけを考えた「自分が何をできるか?」を問うのは面白くない。自分がお客様に何を与えられるかの方が、断然やりがいがある。

カンパニーホスティングカンパニーと生命としてのコア

今までに考えていた将来の会社像を描いてみようと思う。より流動性のある組織、小回りの利く組織がたくさん出てくるだろう。それは大企業のできない様な小回りをして、会議をして決定をするまでに作ってしまう。先手に回れば、中小企業でも勝ち目がある。しかし、それだけではちょっと弱い。ただの中小企業ではただのクラスターだ。それを成長させて、大きな結晶を作るのでは何の意味もない。利点を捨てて、大きくなってもしょうがない。

だから、次の形態は、クラスター同士のクラスターだと思う。何かの集まりとか、なんとかネットワークとかそんなつまらないものではない。職場と技術を共有する中小企業群だ。そして、その場所、位置は自由だ。中にいて求められるのは一つ。いかに満足させられるかだ。何を?情報と人間のお客様を。そのための手段は問わない。協力もありだし、何でもありだ。ただひたすらに目的を目指す。その理念の共有と交流は密に行う。

そして、その企業群をホストするホスティングカンパニーを作る。これは開発ではなく、保守とセキュリティ、サービスなどを請け負う。中の中小企業は、お金を払ってその職場にいる権利を確保するのだ。いろいろな問題が解消する。収益源は自分で確保しなければいけないために自立しなければならない。だから、不公平感は生まれない。いかにその職場を生かして稼ぐかだ。

そしてその中では、学生のバイトから始まって、優れていればそのままその中で資金を集めて起業できる。みんな社長候補だ。だから政治的な取引なんて意味がない。自分次第でしかないから。

そして、ある程度の大きさになったら、地理的に株わけをする。そしてそれは、その地で色々新しい人を巻き込みながら成長していく。そして、大きくなったら株わけ。もちろん今までの株同士でもオンラインでつながっている。これが次の世界じゃないかと考えている。どうだろうか?

ブランドはシンプルなデザインにして、その中に作った会社のエンブレムを合成してブランドにする。このようなことをすることで、共通意識が生まれ、ブランドとプライドが向上される。もちろん、その企業がその群を出たとしても、エンブレムは彼らのものだ。こうすることで、逆に優秀な人が外部に出ていくことを防ぐ。圧倒的な居心地の良さをホストしてくれるから、外に出ようなんて考えなくなる。自分の権利ももちろん守られる。

そう、これは人工的なシリコンバレーの次の段階だ。集まるところには、ますます集まるということを利用して、コアを人工的に作る。これが私の夢だ。組織は、個性と知性を持って、来る情報社会を生きてくれると思う。私はこんな社会が作りたい。